相続の対策といっても、相続に当たってどのような点に焦点を当てるかによって、対策方法や手段は全く異なったものになってきます。
相続対策と称して、通常多くの税理士が行うのが、『相続税対策』です。
つまり、税理士の専門分野である税金、つまり相続税の節税を主眼においた相続の対策であるため、ややもすると、相続人同志の人間関係を考慮に入れないような対策をとることがあります。
これに対して、相続人同士がいがみ合うようなことにならないよう、争いが起きないように対策を行うのが、『争族対策』と呼ばれるものです。
これは、争いの種を取り除くという予防法学としての見地からも、節税対策だけよりも一歩踏み込んだ対策であると言えるでしょう。
これまでは、これら2つの対策が、『相続に関する対策』として、必要であるとされてきました。しかし、これらの対策だけでは、現在のような高齢化社会においては十分ではないと思われます。
そこで新たに、『生存対策』という名称の対策こそが、現在の日本のような高齢化社会では必要だと考えられます。現在では、被相続人つまりお亡くなりになる方の年齢が非常に高くなってきており、相続人である子供さんも後期高齢者となってきています。
現在の超高齢化社会では、老後といっても現役として働いていた期間に匹敵するような長い期間が待ち構えているのですから、相応の資金が必要になってきます。
このように、対策には大きく分類して3つの対策があると考えられますので、各々の対策について説明させていただきます。
生存対策とは、高齢者が老後を暮していくために必要な財産を相続人に分け与えることなく、自ら消費していくことができるようにすることです。
相続税対策という節税対策を税理士から勧められ、不動産を生前贈与すると多額の贈与税がかかってしまうのという理由で、老後の必要資金である預金等の財産を生前贈与していたら、どうなるでしょうか?
贈与された側は、その受け取った財産をどのように使おうが自由ですから、パチンコや飲み代に消えてしまっても、財産を渡した側は何も言えません。
本来であれば、豊かな老後の生活を楽しみのためにとっておいた財産を贈与することで、子供や孫の浪費癖を助長してしまう結果になるかもしれないのです。
このようになってしまったら、泣くに泣けません。
このような事態を避けるために、預金を贈与税がかからないように贈与しておいて、預金通帳と印鑑等の管理を子供達に任せずに自分自身で管理していたら、いざという時には自分自身のお金として使えますね。
この場合、たとえ子供達の名義になっていた預金であっても、自分自身の裁量で使える預金であるということで、贈与したと思っている人の財産(名義財産)として、相続税の遺産対象額に含まれてしまいます。
しかし、子供達に遊ぶ資金を贈与するよりも、自分たちの生活資金に充てるほうが、よっぽど有意義ですね。
従って、相続に対する対策には順序というものがあります。
最も大切なのが、この『生存対策』です。
次にやるべき対策が、『争族対策』です。
そして、相続税の納付の可能性がある方だけが、『相続税対策』を行えば良いのです。
最も大切な生存対策において重要なのが、老後の設計です。
毎月の衣・食・住に係る費用を見積もっておき、それを年間換算したものに、現在支出している医療や余暇・旅行等の年間必要額を加えた金額を、最低限の年間生活費として見積もっておくことです。
このような見積りのためには、家計簿をつけておくことが必須条件となります。経理知識のある方ならご自身の現在の資産を貸借対照表として、家計簿での収入や経費を損益計算書に置き換えておけば、更に詳細な見積りが出来ると思います。
ここで作成する貸借対照表は、相続税評価額に置き換えて作成しておけば、そのまま相続税対策につなげていくことが出来ます。
毎年の必要経費を見積もることが出来たならば、現在の年齢から100歳になるまでの年数を掛け合わせて必要額を算出してみましょう。
100歳まで生きるなんて到底無理だと言う方もいるかもしれませんが、ここでは生存対策を主眼に置いているわけですから長生きすることを前提に考えておくことが大切です。
100歳まで生きれば医療費や介護費が現在の何倍も必要になりますので、保険を活用した対策を講じる必要があるかもしれませんし、見積額に上乗せする必要があるかもしれません。
老後の生活資金を見積もったならば、100歳まで生きた時の年金等の総収入から計算した必要資金を控除し、プラスならば現在の資産に加算し、マイナスであれば現在の資産から控除することで、相続財産が計算されます。
このようにして計算された財産こそが相続対象になるのであって、現在の財産がそのまま相続対象になるのではないということだけは、肝に銘じておいてください。
ここまでやって、初めて次の段階である『争族対策』が打てるようになります。
テレビドラマや推理小説などで扱われる相続に関わるストーリーでは、必ずと言っていいほど身内同士の醜い争いが表面化してきます。
このような親族同士が争うことを、『そうぞく』という読み方になぞらえて、『争族』と書くことがあります。
テレビドラマであれば、ストーリーの展開にドキドキしながらお茶の間で楽しめますので、他人事として、フィクションとして見るには面白いかもしれません。
しかし、現実に自分達の身の周りでこのような争いが起きたらどうでしょうか?
「自分の配偶者や子供達に限って、こんなことは絶対に起こらないから大丈夫」などと、タカをくくっていませんか?
このところ、家庭裁判所で扱う遺産分割事件の件数が徐々に増えつつあります。
家庭裁判所で、家事調停及び家事審判で新たな事件として受理した件数は次のとおりとなっています。
H15 | H16 | H17 | H18 | H19 | H20 | H21 | H22 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
調停事件 | 9,582 | 10,083 | 10,130 | 10,668 | 10,317 | 10,860 | 11,432 | 11,472 |
審判事件 | 1,974 | 2,071 | 1,869 | 1,946 | 1,948 | 2,019 | 2,073 | 2,125 |
合計 | 11,556 | 12,154 | 11,999 | 12,614 | 12,265 | 12,879 | 13,505 | 13,597 |
(最高裁判所「司法統計年報(家事事件編)」より作成)
遺産分割に係る事件は、当事者である相続人間で争いのある事件ですから,第一次的に当事者間の話合いによる自主的な解決が期待されることから、多くは調停によって扱われますが、当事者同士での話し合いの見込みが最初から見込めない場合などは審判として扱うこともできます。
最初に調停として申し立てられた事件であっても、当事者間の話合いがつかずに調停が成立しなかった場合には、次の段階である審判手続に移り、裁判官が当事者から提出された書類や家庭裁判所調査官が行った調査の結果等種々の資料に基づいて判断し決定してもらうことになります。
なお、当事者が審判を申し立てても、裁判官がまず話合いによって解決を図る方がよいと判断した場合には、調停による解決を試みることもできることになっています。
この数字はあくまでも統計ですので、そのまま自分達に同じことが当てはまるというわけではありませんが、さらにもう一つ、平成19年の統計資料には、次のような資料がありました。
1,000万円 以下 | 5,000万円 以下 | 1億円 以下 | 5億円 以下 | 5億円 超 | 算定不能 ・不詳 | 総数 |
---|---|---|---|---|---|---|
2,044 | 3,083 | 1,000 | 537 | 41 | 308 | 7,013 |
(29.1%) | (44.0%) | (14.3%) | (7.7%) | (0.6%) | (4.4%) | (100.0%) |
この表と、上記表の19年度の件数が違っているのは、この表は認容及び調停成立で終局した事件、つまり事件が無事解決された件数を対象としているためです。
平成19年の相続税の基礎控除額は5,000万と、相続人数に1,000万を掛け併せた金額の合計額ですから、少なくとも遺産総額が5,000万円以下の事件については、相続税を納める納税者はいなかったはずです。
しかし、1,000万円以下と5,000万円以下の合計件数は5,127件で、全体の73.1%を占めていることがわかります。
ここまでの説明だけで、相続税のかからない相続に争いが多いと結論付けている方が多いようですが、この数字をそのまま鵜呑みにしてしまっていいというわけではありません。
次の表は、平成19年の国税庁の報道資料から抜粋したものです。
被相続人数 (死亡者数) | 相続税の申告に 係る被相続人数 | 課税割合 | |
---|---|---|---|
人数 | 174,586人 | 7,841人 | 4.5% |
財産額別の事件数と、被相続人の数との比較をしてみましょう。
上記の財産額別の事件数から相続税の申告を提出した数は判りませんから、無理やりですが先ほど計算した5,127件が申告書を提出する必要のなかった件数だと仮定しましょう。
すると、
相続税の申告が必要なかった件数と遺産分割事件との割合は、次のように計算できます。
5,127 ÷ (174,586−7,841) = 3.074%
続いて、相続税の申告をした件数と遺産分割事件との割合は、次のように計算できます。
(7,013−5,127) ÷ 7,841 = 24.053%
このように、圧倒的に相続税の申告をした方々において、争う割合が高くなっています。
つまり、相続税を納付しなくても良い相続に争いが多いわけではなく、平成19年における相続税を納付しなくても良い相続件数割合である95.5%の166,745件という非常に多くの相続でも、割合は少ないものの争いが起きているということです。
ここで大事なのは、相続財産が多かろうが少なかろうが、相続人である身内同士での争いを避けないと、本来であれば助け合わなければならない身内同士でいがみ合うことになってしまいますので、争いの種を事前に摘み取っておくことこそ、財産を所有している方の責務であるということです。
やはり、相続税の対策よりも争族の対策のほうが重要であるということは理解してもらえたのではないのでしょうか。
このような争いは、相続税の申告においても不利となり場合があります。
相続の争いは長期化することが多く、収集がつかずに相続税の申告期限(相続開始後10ヶ月)を経過してしまうことがあります。
このように、相続税申告期限を経過してしまうと、小規模宅地の特例等の税額を減少させることが出来る特例を使えなくなってしまうことがあります。また、たとえ相続税の申告書を提出しても、相続人の中で相続税を支払わない者がいた場合には、他の相続人が連帯して納付する義務を負うため、更なる争いの火種となる可能性もあります。
このような醜い争いを避けることが、最も大切な「人生のエンディング設計」だと言えます。
生前中に相続人と良く話し合っておくことが何よりも大切です。そして、話し合って取り決めた内容に基づいて、公証人役場において「公正証書遺言書」を作成しておき、相続人全員に周知してもらうことが肝要です。
自筆証書遺言も勿論できますが、遺言の形式等が整っていないと正式な遺言書として取り扱ってくれませんので、あまりお勧めできません。
自分の血を分けた子供達が争うのは、本当に慙愧に堪えないものです。
スムーズに遺産分割が出来るように生前中に取り決めておくことこそ、正しい相続(争族)対策です。
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